デリカシーのない人【やっぱり誰にでもがんだと話すべきではない】
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子宮頸がんを告知されたとき,親しくしていた友人から受けた,デリカシーのない発言について書いてみます。
Mさんは,面倒見がよくて,誰からも頼られる人でした。
私も,そう思っていました。
同い年で,恋愛話などもしていて,とても仲良くしている間柄でした。
あるとき,私はMさんに,こんな昔話をしました。
Mさんに話した元彼とのエピソード
かつてのおつき合いした人と一悶着あり,お別れしました。
彼は,新しい彼女を作ったのですが,その彼女が,どういうわけか私の電話番号を知り,何度か電話をかけてきました。
自分のことを自分の名前で言うような女性でした。
「彼とはぁ〜,『彼女には幸せになってほしいよねっ』なんて話してるんですぅ〜」
などと,よくわからないことをわざわざ報告してきます。
ほんの些細な誤解が解けないまま別れたことを悔やんで疲れて果てていた私に,そうやって新しい彼女アピールを吹っかけてこられたのですから,ますます傷の痛みは倍増です。
他にもエピソードはありましたが,ここでの本筋ではないので省略します。
結果から言うと,その彼女,実はとんでもない浮気者のサセコちゃんで,彼はただ遊ばれていただけだったようでした。
私もいろいろと誤解があったことを数か月かけて話し合い,元の鞘に収まりました。
そのときの,浮気女の名前を,ジュン(仮名)といいました。
結局,その彼とも再び別れ,数年が経ちました。
あるサークルの中で,冒頭に書いたMさんと知り合って仲良くなりました。
打ち解けていろいろと話すうちに,このいざこざについても話しました。
Mさんは,一通り話を聞いた後,笑いながらこう言いました。
「ジュンって,私の弟と同じ名前」
たしかに,男性でも女性でもどちらでもある名前です。
今でこそ,結婚して,この彼との一件はなんとも思わなくなりましたが,それでもこの名前を聞くと,いまだにどこかでムッとする自分がいます。
子宮がんだと話したらとんでもない答えが返ってきた
さて,さらに数年が経ちました。
私は子宮頸がんを告知されました。
まさか自分が。
どうして?
どうしたらいいんだろう?
過去の記事では,がんであることを伝える相手は選んだほうがいいという趣旨のことを書いています。
(過去記事:がんになったことを友人にカミングアウトすべきか【相手を選ぼう】)
ですが,告知されたばかりのこのときは,パニックになっていて,身近な人に自分ががんを告知されたことを話してしまっていました。
当時の私は,思慮が浅く,とにかく誰かに助けてほしかったのです。
初めて突きつけられた重大な事実に打ちのめされるばかりでした。
その話した人たちの中に,Mさんもいたのです。
Mさんに言いました。
どうしよう,私,子宮がんだって。
聞かされたMさんはすごく驚いて,心配していました。
ちょうどその当時,「子宮頸がんはウイルス感染による発症の可能性が高い」というニュースが,世間に広がり始めていました。
HPV(ヒトパピローマウイルス)に感染することが,子宮がん発症の原因とされているというのです。
このHPVは,性的接触による感染が多数を占めることから,「子宮がんは男遊びが激しい女がかかるものだ」といった偏見を生んでいます。
もちろん,それは誤った見方です。
米国に興味深いデータがあります。18〜25歳の女性3262人を対象にHPVの罹患率を調べた研究があり,それまでの性交渉の相手が1人だけの女性の14.3%にHPVが検出されたのです。この論文では,結論として「ただ一人の男性しか知らなかったとしてもHPV罹患率は高い」としています。「子宮頸がんは性感染症」が生む偏見 | 実践!感染症講義 -命を救う5分の知識- | 谷口恭 | 毎日新聞「医療プレミア」
自分のことについては,ここで深く掘り下げて書くつもりはありませんが,少なくとも私の立場は,こうした偏見に大変迷惑を感じている一人であるということは述べておきます。
話は戻ります。
そうした説があるらしいという話をMさんにしました。
子宮がんって,ウイルスが原因かもしれないんだよね,と。
なぜ開口一番にその名を出すのか
子宮がんって,ウイルスが原因かもしれないと話したら,Mさんは笑いながらこう言いました。
「え? ジュン? ジュン?」
笑ってる…
しかも,忌まわしいあの名前を,何度も繰り返し私に言ってる…
頭が真っ白になりました。
この後,Mさんとどんな会話をしたのか,もう憶えていません。
彼女は何が言いたかったのでしょうか。
私の子宮頸がんは,かつての元彼が一時期つき合っていた女性・ジュンがとんでもないサセコちゃんであり,そのジュンのHPVが彼を経由して私に感染したからではないのか,という意味だったのです。
そして,その名前がたまたま,自分の弟と同じ名前であったという,彼女から見たおかしさに笑ったのでしょう。
もちろん,彼女は,そこまで言葉にして私に説明してはいません。
ですが,私が「子宮がんはウイルス感染でかかる可能性があるらしい」と告げた瞬間,開口一番に出たセリフが,「ジュン?」だったのです。
ただでさえ,がんを告知されてパニックの精神状態の相手に,笑いながら,HPVに感染していたのかということを問うとは。
しかも,聞きたくない名前まで出して。
デリカシーも何もあったものではありません。
もしかしたら,彼女は別に,私のことを友だちと思っていなかったのかもしれませんね。
Mさんと一切の連絡を断つ
その日を境に,彼女からの連絡を断ちました。
理由も言いたくなかったので,電話もメールも一切無視しました。
無視された訳がわからないMさんは,入院先をどこかから聞きつけ,お花を持ってお見舞いに行ったそうです。
窓口にお花だけでも預けて帰ろうとしたらしいのですが,その病院ではお花のお見舞いは禁止だったため,受け取ってもらえなかったようです。
行き違いで,その日に退院したこともあって,私も病院側からは何も知らされていません。
術後の体調も落ち着いた頃,電話が来ました。
私は,自己満足のための謝罪は受け入れないことにしています。
(過去記事:自己満足のための謝罪は不要です【誠意すら受け入れられないこともある】)
とは言え,共通の知人も多いことから,このままだと周囲にも迷惑が及ぶと思い,一度会って,私が会わなかった理由を話しました。
Mさんは,泣きながら謝ってきました。
ですが,なぜそんなことを言ったのか,まるで憶えていないようでした。
友だちががんと知って,自分までもパニックになったとか?
いいえ,そんなことは言っていませんでした。
ただ,ごめんなさいと言い続けていただけでした。
そのMさんとは,今は付き合いがありません。
後に私が結婚してメールアドレスを変えた際に,変更のお知らせメールを送ったら,アドレス不明で返ってきました。
以降,連絡の取りようもなく。
やっぱり,そこまでのお付き合いだったのでしょう。
クドイようですが,がんになって誰かに頼りたくなっても,病気のことを話す相手は,本当によく吟味すべきなのです。
がんを告知されたら,慌ててパニックになるかもしれません。
ですが,どうか落ち着いて,冷静になることを最優先させてください。
余計なことで傷ついて,さらに消耗しないためにも。