榊英雄氏と対決したことがあるので書いてみる【彼はドMだと思う】
映画監督で俳優の榊英雄氏が,複数の女優にキャスティングをちらつかせ,性行為を強要したことが告発されました。
かつて私は,役者としていろいろなレッスンやワークショップに参加しており,榊氏が講師を務めた講座も受講したことがありました。
そのときに書いた日記を見つけたので,載せてみます。
いまから13年前のこと,とあるワークショップの10回か12回開催された中のゲスト講師でした。
以下に書く話の前の週,初めて受けた榊氏の演技指導で,こう言われました。
「ねえさん,あなた嘘つきだ」
別段,反論はありませんでした。
あぁ,そうだろな,と。
そのクラスはどこか暗く,先輩にあたる役者たちが見学に来て「なんかこのクラス,暗いな…」と漏らしていたほどでした。
本音を隠した,嘘で塗り固められた人たちが多く身近にいて,嘘つきにもなるさ…という気持ちで,毎回をこなしていました。
そりゃあ,嘘つきにもなります。
そして,自分自身,芝居とどう向き合うかで悩んでいた時期でもありました。
嘘つきだと榊氏に言われた瞬間は吐き気を催しました。
だけど,“嘘つきなんだろな,私は”とも同時に思いました。
間違ってはいないよな,それって,と。
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とはいえ,翌週もまた榊監督が来るのか…と思うと,気が重い,重すぎる。
そこで,まったく芝居とは関係のない知人や友人数名に,こんな人が来るクラスをまた受けなきゃならないと相談してみました。
それまでの榊氏のキャリアや作品も含め,ワークショップでの言動を,できる限り偏らないように伝えてみたつもりです。
すると,ある人がこう言いました。
「ちっちゃいヤツだな,そいつ」
あ、そんなに怖がることはないんだ、と思いました。
必要以上にかまえることもないんだ、と気が楽になって、なんだか不思議と嬉しくなってきました。
そして,2回目の受講を終えた数日後の日記が,これです。
日付は2009年11月18日でした。
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当日。
榊監督は,相変わらず、罵ったり、怒鳴ったり、言いたい放題。
私のやることに対しても、やはりクソミソだった。
だけど、「次はちゃんとやれよ」という問いかけに、“はい”とだけ、口答えもなく、目線を揺るがすことなく答えた。
吐き気なんてないし、あのときの私とは、もう違うの。
その後、大勢に混じって食事することになった。
いつもの私なら、そんな人間となんて会食しないし、飲みに行きたい連中でもないし、さっさと帰るのだけど、今日は言いたいことだけ言ってやろう、という気になった。
もう二度と会わないんだろうし。
しかし、意に反して相手のほうは、私のことがなんだか目について仕方がなかったらしい。
「おまえ、九州なんだって?」
あんたに“おまえ”なんて言われたくないんだけど。
だけど、“ええ!監督は長崎なんですってね!”とか、何事もなかったかのような笑顔で答えてやった。
おぉ、以前の私なら、言われたことを引きずったまんま、会話なんて成立しなかったのに。
感心感心。
えらいえらい。
相談した人たちが言った“ちっちゃいヤツ”ってことばに、すごく勇気づけられたにちがいない。
食事の場では、みんなが媚を売っていた。
どうにかして顔を売ろうとしていた。
私は、別に、もういい。
どうせ、この人から仕事もらうことなんてできないんだろうから。
飲み会に参加できなかった友人が気になって電話したり、彼氏から連絡がないか確認したり、トイレに行くときなど、中座するたび、
「おい! どこ行くんだ!?」
総勢20人以上いるし、目立たないようにしてたのに。
おやおや?
結構、目についてんの?私。
そうか。
濃いことを一瞬だけやったほうが記憶に残るんだ。
席に戻るときに、また声をかけてきた。
私は椅子には座らず、彼の席の脇の通路にしゃがんだ。
座っている彼の膝に手を添えて、というか、腿に腕をかけて、下から見上げて、彼の能書きを興味深げなふりをして聴いていた。
「う… そんな上目遣いで見られても…」
そうか。
こいつはドMだわ。
こうなったら、徹底的にキャバ嬢化してやろう。
脚と脚の間にそぅっと手を伸ばしてやったら、「うぉー♪」だってさ。
ふん、えらそうなこと言っときながら。
笑える。
彼の隣の席で媚だけ売ってる女が、嫉妬のまなざしを向けてくる。
気持ちいい。
彼の奥さんはミュージシャン。
ずっと以前にヒット曲をいくつか出している。
“奥さんの歌、好きだったなぁ”
おだてるわけじゃないけど、本当に好きな時期があった。
そんな話をしたら、まんざらでもない顔をした。
じゃあ、奥さんこの店に呼んでよ、と言ったら、
「ちょ… こえーんだよ!」
“ふん、ちっちゃい男!!”
ついに言ってやった。
凹んでた。
私のいるテーブルに移ってきたので、彼の膝の上に座ってやった。
もう一回、さっきの場所をさわってやった。
ゴキゲンな顔してた。
周りの女子たちからは冷ややかな軽蔑の視線。
あなた達にはできまい。
他の人たちに用はないので、先に帰ることにした。
「 もう帰るのか!もう二度と会うことなんてないだろうけどな!」
はいはい。
会費の小銭がなくて、近くのコンビニに走った。
店に戻って幹事に支払いをしようとしたら、彼と目が合った。
両替のために買ったチロルきなこもちチョコを、彼の口に押し込んでやった。
“二度と会わないなんてこと、ないと思うよ!!!”
そう吐き捨てて店を出た。
あぁ、すっきり。
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そして今日、ヤツから電話がかかってきた。
奥さんのライブの宣伝だった。
ま、どうせ営業の対象に過ぎないんでしょ。
「他のメンツの連絡先、知らないんだよ」
ヤツから電話もらった人なんて、あの中では私だけだろう。
不思議な達成感。
仕事くれるんなら、行ってやってもいいよ。
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もう10年以上前の話です。
自分で読み返しても,イキってて,カッコつけすぎてて恥ずかしくもあるのですが。
まだLINEなんてない頃です。
数年後,Facebookで榊氏を見つけ,DMを送ってみました。
この日記を書いた年末に結婚して姓が変わったので,「憶えてますか?」と旧姓を書き添えて送ったところ,ちゃんと憶えていてくれて,『友達』申請してきてくれました。
いまでも『友達』リストに載っていますが,もう彼は私のことなど憶えていないのではないでしょうか。
私も現在,FBはまったく使っていないので,彼とのことはすっかり忘れてしまっていました。
演技指導というものは,人間の感情を扱うためか,とてもパワハラモラハラ的な場面が頻発します。
人格否定なんてしょっちゅうです。
私も久しく芝居から離れているし,演出家や監督によってもやり方が変わってくるので,一概に言えませんが。
今回の報道記事を読んで,怒号が飛び交う現場だったという内容をいくつか目にしたのですが,相変わらずだなぁと思ったものでした。
ですが,性行為の強要(本当はもっときわどいワードが並んでいますが)など,絶対に許せないし,許してはいけない。
榊さん,あなたの名前を見るだけでフラッシュバックするという経験は,私も1週間くらいありました。
怒号と罵詈雑言が飛び交うクラスで嘘つきと言われ,吐き気を催したほどです。
でも,あのときの体験をユーモアに転換する努力,それができる余地が当時はあった。
私はそれで済んだけど,キャスティングをちらつかせて女性を襲うなんて,そこまでする人だとは思わなかった。
いや,その予感はあったのかもしれないですね,女性の尊厳を踏みにじるようなやり方をする言動というか。
被害者の方々にどう償うんでしょう。
以前のこのブログでも書いたように,これは謝られても許せないことです。
簡単には立ち直れない,同じ女性として,そう思います。
表舞台に二度と出てこないのが一番でしょうね。
名前を出して表現することは,もうやめたほうがいいかもしれない。
もう二度と会うことなんてないだろうけどな!
あなた,私にそう言いましたよね。
…こんなふうにして『再会』するなんて,ねぇ。