生きた証をつらつらと 〜2つのがんを同時に患いました~

直径10cm・転移3か所・ステージIIIの乳がんを切らずにUMSオンコロジークリニックで治療し、子宮頸がんも4度の手術で温存して12年が経っても、まだ息をしている女の生き方

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植松稔先生の本を読み直してみました【『明るいがん治療3』レビュー】

前回の記事はこちらから読めます↓ 

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UMSオンコロジークリニック(当時の名称はUASオンコロジーセンター)で治療したと散々書いておきながら,植松先生のご著書に関してはこれまでほとんど触れていませんでした。

 

『明るいがん治療3 〜「明るいがん講座」30話〜』を読み直してみました。

私が治療していた年の翌年2009年に出版されたものです。

読売新聞に連載していたコラムが加筆され,加えて,1年の連載で担当していたデスクの方との対談や,2009年当時の最新データをもとにした論文がまとめられています。

「我慢してつらい治療を受ければ,楽な治療で済ませるより,きっと良い結果が待っている。」これは,一般にありがちな発想ですが,がんの治療では,しばしば裏目に出て,患者さんの後悔のもとになっています。

(『明るいがん講座3』植松稔 p.57 三省堂

なぜ初めにこの箇所を引用したかというと,先生の患者さんに対する視点がわかりやすいからです。

 

子宮頸がんの経験から,私は当初,乳がんも手術することになるだろうと思っていました。

「つらい治療を乗り越えた!」という箔がつくかなとも考えたりしましたが,やはりどうしても,どうしても,どうしても抵抗がありました。

 

「ここを我慢すればいいんだ」とは,とても思えなかったのです。

切ってしまえば,元通りには戻せない。

もしもその後悔をすることになるのなら,切らないことを試してからでもいいんじゃないか。

私はそう考えました。

 

がんに限らず,病院に行くとなると,お医者さんとの対話は,なかなかに緊張するものです。

患者としても,できるだけお医者さんの機嫌を損ねないようにする気持ちが湧く人もいるでしょう。

 

最近では,新型コロナウイルスに罹患した患者に罵詈雑言を吐かれ続けて,医師を辞めたという人もいるようですが,がんでも心臓病でも,告知した医師は同じような目に遭わされる可能性もあるわけです。

 

実際,私がお世話になったいくつかの病院でも,壁越しに怒鳴り声や泣き声が聴こえてきたことがありました。

それでも患者と向き合うのが医師という仕事。

知識や技術もさることながら,そうしたことに対峙する強さも必要になるんですね。

嫌なお医者さんにも出会いましたが,それはそれ,医師という職業,そして医療関係のお仕事をする方々には,尊敬の念しかありません。

 

そんな,医師として見た,患者の人生をも考えた視点がここに現れていると,私は思うのです。

明るいがん講座3をレビューします

また,患者としての,病や医師との向き合い方についても書かれています。

あなたの乳がんは,あなただけの乳がんです。治療の選択肢を考えるのに,遺伝子の違う他人のデータで作られたガイドラインに縛られる必要はありません(もちろん参考にしてもよいのですが)。

(『明るいがん講座3』植松稔 p.218 三省堂

〇〇病にはこれ,〇〇症にはこれ,という型にはまった治療法に囚われず,自分できちんと考えて選びましょうということを,全編通して訴えています。

そのための考え方のヒントをたくさん提示してくれている本です。

あまり髪の毛が抜けない薬がいいとか,吐き気の少ない薬がいいとか,注射は痛いから飲み薬がいいとか,ご自分の価値観や選択基準を尊重して薬剤を考えてくれるような腫瘍内科医に巡り会えると理想的だと思います。

(『明るいがん講座3』植松稔 p.218 三省堂

まさしく,私は「髪の毛が抜けるのは嫌!」と言いました。

髪が抜けるのは当たり前だと思っていたのです。

抗がん剤=脱毛というイメージが強かったので,まさか髪が抜けない抗がん剤があるとは思ってもみませんでした。

 

これについては,過去の記事にも書いています。

「髪が抜けない薬」というより,「髪を抜けにくくする投与の手法」があるという表現のほうが正しいようです。

 

もしかしたら,本当に髪が抜けない抗がん剤があって,それが自身の症例に適応するかもしれないので,いずれにせよ,こうした希望はきちんと伝えるべきでしょう。

そんな医師はいないという答えが返ってきそうですが,結果責任を医師に押し付けると,彼らもガイドラインに逃げ込まざるを得なくなるのだと思います。結局,結果を受けとめるのはご自身しかないわけですから,そういう当たり前のことを,患者さんのほうから医師に向かって再確認してあげれば,案外と付き合いのいい医師も少なくないように思います。

(『明るいがん講座3』植松稔 p.218 三省堂

ただただお医者さんがエライ,スゴイ,と頼るのではなく,自ら選び取るためにも,自分の価値観や願望をきちんとおさえた上で,確認していかなければならないわけですね。

 

別の本でも,先生はこう話しています。

私が理想とするのは,患者さんのほうから医者に注文をつける医療です。自分はこういう病気だ,この進行度だ,一般的な治療はこれで,治る確率はこれくらいらしいと,ご自分の病気を知ったうえで,でも,もっと治る確率を上げられないか,もっと楽な治療はないか,治療期間を短縮したい,仕事を続けながら治療をしたい,周囲に気づかれないよう治療したい,というふうに標準を超えた治療を求めて,注文をつけてほしいと思います。

(『逸見晴恵が訊く がんを生き抜くための指南書』逸見晴恵 pp.39-40 蕗書房 )

患者がもっと賢くならないといけないなと思わされます。

 

出版から10年以上が経った現在,植松先生に限らず,こうした話し合いにきちんと応じてくれるお医者さんは増えているような気がしています。

 

また,個人的な感触にすぎませんが,ヒューマンスキルを求める傾向はどの職業にも高まっているように思います。

 

であるならば,患者だって賢くならなければいけません。

わがままを『正しく』受け入れてもらうためには,自分の病気や,医療事情をきちんと把握しなければなりません。

 

あらゆるデータから得られた研究結果が,臨床現場でどのように利用され,どのように勘違いされてきたのか,そしてそれらをどのように見つめ直せばいいのか,実例とともに詳しく解説されています。

 

いけ好かない医者と無理につき合わなくてもいいように,そしてもちろん,自分の求める治療法にたどり着くためにも,有益な一冊です。

 

明るいがん治療〈3〉「明るいがん講座」30話

明るいがん治療〈3〉「明るいがん講座」30話