生きた証をつらつらと 〜2つのがんを同時に患いました~

直径10cm・転移3か所・ステージIIIの乳がんを切らずにUMSオンコロジークリニックで治療し、子宮頸がんも4度の手術で温存して12年が経っても、まだ息をしている女の生き方

MENU

また植松先生の本をレビューします【抗がん剤治療のうそ】

前回の記事はこちらから読めます↓ 

 --------

もともと本を読むのは好きなのですが,この機会にと,植松先生のご著書をすべて一気に読んでいました。

現在,5冊が出版されています。

 

これまでの記事で『明るいがん治療』のシリーズと『世界初からだに優しい高精度がん治療』をレビューしましたが,あと1冊残っていました。

抗がん剤治療のうそ』については,何度かちょっとだけ書いてはいましたが,レビューらしいことをあまりしていませんでした。

 

今回は,この『抗がん剤治療のうそ 〜乳がんケーススタディとして〜』という本について書いてみます。

 

タイトルからすると「抗がん剤は効かない」「抗がん剤は使うな」という内容のように感じる方もいるかもしれません。

そうではなく,正しくデータを読み解いて,抗がん剤を使うべきときには使い,使わなくてもいいときに無駄に使われないよう,理解を深めましょうというお話がメインとなっています。

抗がん剤治療のうそのレビュー

初版は2012年,私が植松先生のもとで乳がんの治療を受けていたのが2008年ですから,4年後の出版です。

医療は4年もあれば,確実に進歩を続けていることでしょう。

 

進歩のためには臨床試験が必要です。

臨床試験の結果を論文などで示す際には,統計学が使われます。

その統計の手法によって,解釈ががらりと変わってしまうというのです。

それはいったいどういうことなのでしょうか。

 

まず,がんは個人差が大きく千差万別であるということは,先生の他の本でも常に述べられています。

(過去記事:植松稔先生の本を読み直してみました【『明るいがん治療3』レビュー】 ,治療法もさることながら先生の人柄に惚れていました

  

個人差が大きく,ひとくくりにできない病気であるとはいえ,「がん」という病気としては,まずくくらなければなりません。

 

そして,今回のこの本では,抗がん剤がよく効くとされる乳がんを中心として書かれていますが,対象とならないがんの種類がきちんと明示されてあります。

これら以外のがんは,乳がんと同じくらいの効き方であるか,乳がんよりも抗がん剤が効かないといいます。

(参照:『抗がん剤治療のうそ 〜乳がんケーススタディとして〜』植松稔 p.9 ワニブックス

 

その上で,自分のがんが抗がん剤治療の対象となるのかならないのか,そこでまた,判別が必要になるわけですね。

 

この本におけるその判別の手段の一つが,転移や再発です。

 

それまでの医学界では,「臓器転移が見つかってから抗がん剤で治療しても間に合わないから,微小転移のうちに治療する」という考えが主流だったといいます。

 

ですが,植松先生はこう主張します。

過去に行われた臨床試験の結果を正しく解釈すると,乳がん抗がん剤治療やホルモン療法は,『肉眼的な転移』にも『微小転移』にも同様の効果である。だから存在の確認できない『微小転移』を治療すべきではない。はっきりと転移がでてしまってから,その時点でどういう治療をしたらいいかを考えるのが正しい」

(『抗がん剤治療のうそ 〜乳がんケーススタディとして〜』植松稔 p.15 ワニブックス

 

そう言えば,私もすべての治療が終わって,「再発防止のためにはホルモン療法をやったほうがいい」という情報をどこかで読み,植松先生に尋ねたことがありました。

 

「やりたかったらやればー?」

 

おしまい。

 

今では「賢い患者であるべき」と考えてはいますが,あまり詳しく調べすぎるのも頭でっかちになってしまうので,専門的な用語は未だによく知りません。

自分がナントカネガティブだとか,ナントカ陽性のタイプだとか,聞いてもいません。

 

当時からそんな人間でしたから,納得も理解もできないままホルモン療法を受けなくてよかったと,今でも思っています。

ステージⅢで転移もあったのに,10年以上,再発も転移もしていません。

 

やや脇道にそれてしまいました。

何が言いたいかというと,主治医から「ホルモン療法をやるべき」という事実を突きつけられていない以上,やっても意味がないわけです。

それと同じように,目に見えない,あるかどうかもわからない『微小転移』のために抗がん剤を治療すべきではないのです。

 

とかく「がん」に対しては「再発や転移の防止のために」という治療もついて回ります。

それは当然の考えなのですが,受けなくてもよかったかもしれない治療を受けて苦痛を与えられるよりも,今そこにある病気に対しての治療を重視したほうがいいのです。

 

とはいえ,やはり「発見が遅れてしまうのでは」「手遅れになったらどうするんだ」という見方もあるでしょう。

その点に関しても,きちんと論理立てて説明が展開されています。

本当に「微小転移」が隠れている人もいるのですが,そのような人たちも再発・転移がでてから抗がん剤を考えれば十分なのです。

(『抗がん剤治療のうそ 〜乳がんケーススタディとして〜』植松稔 p.76 ワニブックス

臨床試験の結果を正しく理解することで,受けるべき治療と受けなくてもいい治療が明白になるのです。

 

しかしながら,その試験結果の統計手法も,インチキともいうべきルールが適用されているなど,医学統計の闇についても触れられています。

 

私も大学の科目で統計学を少し学びましたが,こうした見方・使い方をすることもできるのかと,逆に関心すらしてしまいました。

 

そして,先生のどの文章もそうなのですが,時おり,詩的な表現が織り交ぜられるのです。

統計学は金融学と同様に,もともとこの世界には存在していなかったものを,人間が数学的手法を使って,自分の都合で勝手に作り上げた一種のアイデアでありルールです。まず,何かしらの仮定を決めて,その上に理論を構築していくゲームのようなものといってもよいかもしれません。

そもそも存在していない基準を,誰かが仮定するところからスタートするのですから,本質的に砂上の楼閣のような危険性を秘めた代物です。けれども,構築された理論が巧みだと次第に信奉者が増え,そのうち誰も正面から否定できなくなってしまう。

裸の王様ならば本人が恥をかいて終わりですが,大きくなったら砂上の楼閣は土台から崩れて人々に向かって倒れてくるかもしれません。

(以上,『抗がん剤治療のうそ 〜乳がんケーススタディとして〜』植松稔 p.144 ワニブックス

こうした文学的ともいえる表現によって,むずかしい医療の世界のことでも,さらに読みやすくわかりやすいというのが,植松先生の文章術なのですね。

 

またどこかから「はいはい,植松教の信者さん,おつかれさまでーす」という声が聴こえてきそうなので,これくらいにしておきます。

 

私も抗がん剤治療を受けましたが,副作用はほぼありませんでした。

そのときのことは,いくつか過去にも書いていますので,よろしければご参照ください。

 

私も最初は「抗がん剤を使うのか…」と,泣きそうになりました。

それは,脱毛や激しい嘔吐などの激しい副作用のイメージが強すぎたからです。

でも,使うべきときに適切なやり方で使われたこの手法なら,安心して受けられると思います。

 

もちろん,誰にでも「抗がん剤,受けちゃいなよ」と勧めるわけにはいきませんが,納得のいく説明をしっかりと受け,とことんまで熟考し,拒否できないのであればその医療機関からは去ったほうがいいでしょう。

 

その熟考のためのヒントが,この本にはいくつも隠されています。

抗がん剤治療のうそ ~乳がんをケーススタディとして~ (ワニブックスPLUS新書)

抗がん剤治療のうそ ~乳がんをケーススタディとして~ (ワニブックスPLUS新書)