生きた証をつらつらと 〜2つのがんを同時に患いました~

直径10cm・転移3か所・ステージIIIの乳がんを切らずにUMSオンコロジークリニックで治療し、子宮頸がんも4度の手術で温存して12年が経っても、まだ息をしている女の生き方

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Tちゃんの生きた証

前回の記事はこちらから読めます↓

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鹿児島での乳がんの治療中,Tちゃんという女の子と知り合いました。

この過去記事↓の半ばに登場する「Tちゃん」です。

(過去記事:樹木希林さんと同じ治療を受けた私が「全身がん」に関する記事を読んで思うこと

「検査のために入院しているというTちゃんも、そのときすでに乳がんの末期でしたが、「先生、腰が痛いよ」と言って照射してもらっていたと話してくれました。」

 

私は提携先の病院に入院していましたが,治療期間の途中で転院しました。

そのときに同室になりました。

いくつか年下で,長いまっすぐな黒髪が印象的な子でした。

 

彼女も乳がんで,検査のための短期入院,2泊3日と言っていました。 

UMSオンコロジークリニックで治療をしたのは,手術と抗がん剤治療を別の医療機関で受けた後だったそうです。

 

腰の骨に転移していて,「腰が痛いよ」と植松先生に訴えて,照射してもらっていて,それが終わると,スーッと痛みが消えていったといいます。

 

筑紫哲也さんもそうでした。

痛みを取ることのほうに集中したというお話でした。

(過去記事:植松稔著『世界初からだに優しい高精度がん治療 ピンポイント照射25年間の軌跡』レビュー3

 

Tちゃんは,「抗がん剤もやったよ」と話してくれました。

 

あれは,「抜ける」んじゃない。

「もげる」

 

そう表現していました。

 

目の前にいる綺麗な女の子の姿からは想像もできないことでした。

黒髪が背中の中央あたりまでまっすぐ伸びていて,顔色も良く,検査結果を伝えに来た医師と,普通に立って話しています。

 

暇な時間には,お互いのことをいろいろ話しました。

 

「お寺に通ってた時期があるんだけど,もういいや!つって頭剃って行ったのね。

 そこのお坊さんが『思い切ったねー!!』つって爆笑してた」

 

ほんと,思い切りましたねー。

 

…と思ったのですが,お寺に通っていたということは,彼女なりに救いを求めていたのかな,とふと考えてみたりして。

 

「なんか胸にあるなと思ってたけど,気づかないふりしてた」

 

そんなことも言っていたことを憶えています。

 

もっと早く見つけていれば。

気づかないふりなんてしないで,早く検査してもらえばよかった。

 

そんな後悔があったのかなと想像してしまいました。

Proof of existence for T-chan

 

断片的にしか彼女の話は憶えていないのですが,転院して早々,同じ治療を受けていて,しかも同年代ということもあって,仲良く話しました。

とはいえ,連絡先を交換する間もなく,私がクリニックへ出かけている間に,彼女は退院していきました。

 

クリニックでTちゃんのことを話すと,看護師Kちゃんも「彼女もおもしろいでしょー」という反応を示しました。

友達になった大阪のHちゃんと同時期に治療していたらしいことも,知りました。

Hちゃんも同様に「Tちゃん,おもしろいよね」と言っていました。

 

 

 

半年後,Tちゃんが亡くなったことを聞かされました。

 

 

そこまで悪い状態だとは,まったく思っていませんでした。

別の病院で治療を受けた後にUMSオンコロジークリニックに来て,治ったのだとばかり思っていました。

 

そんなことはまったく知らず,すべての治療が終わって3か月ごとに鹿児島へ検査のために通っていたとき,看護師Kちゃんに尋ねました。

守秘義務があるからあまり言えないんだけど…と前置きした上で,話せる範囲で,Tちゃんのことを少しだけ聞かせてくれました。

 

私と会った時点で彼女はすでに末期であったこと。

亡くなる直前に,おつき合いしていた人と結婚したこと。

そして,眠るように息を引き取ったということ。

 

筑紫哲也さんの場合と同様に,すでに手立てのないステージとなっていて,本人は痛みと闘っている状態だったのです。

QOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を高める目的で治療を受けていたのでした。

 

元気そうに見える人でも,どこかに不調を抱えていることは往々にしてあります。

とはいえ,彼女はそこまでのことを感じさせないくらいの佇まいで,私は楽しくおしゃべりさせてもらいました。

 

少しだけしか話せなかったけれども,彼女の人生の一部に加わることができました。

 

私の話すことに笑ってくれていたが,彼女を楽しませることはできたのだろうか。

何か,彼女に失礼なことは言わなかっただろうか。

彼女と話していて,笑顔の奥にどこか遠いものを感じる瞬間があったけど,それは自分の人生の終わりを見据えていた人が発する距離感のようなものだったのか。

 

こうして10年以上が経って振り返ってもなお,私は自分のことしか考えていませんね。

Tちゃん,ごめんなさい。

 

私に今できることは,Tちゃんという女性がこの世に存在していたことを書き残すことくらいです。

 

彼女が「気づかないふりしてた」と言ったことを伝えることくらいです。

 

何かのご縁があって,このブログを読んでいる人へ。

あなたに「これって,がん?」と思う異変があるのなら,このTちゃんの話を思い出してください。

 

そして,早く検査を受けてください。

納得のいく治療法を見つけて,しっかり治してください。

彼女の分まで生きてください。

 

それが彼女の生きた証になるのです。